おーい!おーい!
私はグループホームで働いているのですが、ある日90歳になるおじいちゃんが入所してきました。
そのおじいちゃんは足腰が弱いため、普段は車イス生活です。でも自分で食事もできる元気なおじいちゃんです。おじいちゃんは、とてもさびしがり屋でいつも、「おーい!おーい!」とスタッフを呼ぶのです。
駆け寄ると、毎回「俺はな、毎日お稲荷さんに参りに行ってたんや。俺の名前の入った鳥居もあるんだぞ。」と嬉しそうに話していました。そんなさびしがり屋のおじいちゃんですが、家族は家が遠いので、たまにしかグループホームには来られないのですが、ご家族が来られたときにはちゃんとご家族の顔を分かっていて、「おぉ、来たんか」と時には涙を流して、家族に会えて喜んで話していました。
おじいちゃんの認知症の症状はそこまで酷くはないのですが、食事をしても食べたことを忘れてしまうので、ご飯を食べた後でも「飯はまだかの~」が口癖です。
「さっき食べたでしょ」と言っても、おじいちゃんは食べた覚えがないので、どうしようかと話していたところ、おじいちゃんのご家族から、カロリーが少ない柔らかいゼリーなどをいただき、そのゼリーを食べてもらっていたのです。
ある私が夜勤の時のお話です。夜中に布団がずれる音が聞こえたため、部屋に行ってみると、おじいちゃんがベッドから起き上がろうとしていたのです。おじいちゃんは足腰が弱く、普段は起き上がれるような力はありません。
ですので、すぐに駆け寄って支えて、「どうしたの?おじいちゃん」と私が訪ねると、「しょんべんに行きたいったい」とおじいちゃん。
グループホームに来てからは日中であっても一度もトイレに行くことはなく、昼は紙パンツ、夜は紙おむつで生活をしていました。そんなおじいちゃんが、自力でトイレに行こうとしてたのです。
私はおじいちゃんの思いを叶えてあげたいと思い、ポータブルトイレをベッドの横につけ、支えながらトイレに座ってもらいました。オムツは濡れていましたが、ちゃんとトイレでも用を足すことができました。
つまり、ちゃんと尿意があるんです!
しかしそれに気づかず、オムツをしていた私たちはとても反省し、足腰を鍛えるためにもがんばってトイレに自力でいけるような体制でケアをしていきたいと思いました。
翌日、夜勤明けの申し送りでこの一件を報告をし、ご家族にも伝えたました。ご家族のご希望もあって、次の日からはトイレと言われたら付き添ってトイレに行くようになりました。日中であっても夜中であってもできるだけ対応していました。
そんな甲斐もあってか足腰が弱く立つこともままならなかったおじいちゃんは、介助さえあれば歩けたり、自分でトイレに行けるようになりました。
おじいちゃんの努力が報われた瞬間、本当に幸せな気分になれました。
関連記事
-
-
いったんは見放されてしまったものの・・・
65歳過ぎになる女性の方の話です。その方は60歳までしっかり会社に勤めていた、いわば今で言うキャリア
-
-
はちみつで認知症の介護を決意
祖父は一人暮らしをしていましたが、認知症の症状が進み少々嫌がるのを説得して我が家へ迎え入れました。
-
-
お父さんいかないで・・・
私の母方のおばについての話です。 おばは長年パートで飲食店で働いており、朝、息子さんのお弁当を
-
-
手をぎゅっと握りかえしてくれたおば
【第6話】で登場したおばのその後についての話です。 息子さん夫婦はおばが原因ではないようですが、不
-
-
アルツハイマー型認知症の怖さ
92歳のおじいちゃんの話です。 そのおじいちゃんは一代で会社をおこして成功させた方で、会長までやら
-
-
覚えていてくれたんだね、お婆ちゃん
私の亡くなったおばあちゃんの話です。おばあちゃんは102歳という長寿でなくなりました。おばあちゃんは
-
-
ちょっと、コイコイ!
90歳過ぎたおじいちゃんの話です。 そのおじいちゃんは、ご夫婦で施設に入居されておりましたが、奥さ
PREV :
手をぎゅっと握りかえしてくれたおば
NEXT :
施設のお母さん