ちょっと、コイコイ!
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最終更新日:2014/01/13
みんなに聞いてほしい介護エピソード 介護, 認知症
90歳過ぎたおじいちゃんの話です。
そのおじいちゃんは、ご夫婦で施設に入居されておりましたが、奥さんがガンで先に亡くなられ今はひとりで過ごされています。奥さんが一緒だった時は認知症もそこまでは酷くなかったのですが、亡くなられたのをきっかけに認知症が一気に進んでしまい、物忘れがひどくなり、さらには車イス生活になってしまったのです。でも食事は一人で食べることができ、しかもとっても食通でした。
そんなおじいちゃんのクセはスタッフと目があった時には手招きをして「ちょっとコイコイ」とするのです。行ってみると、「こっちさ、こー回って行くったい」といつもいる場所から施設内のリビングへと移動するのが好きでした。ですので、いつもスタッフが呼ばれると、車いすでリビングへ移動するというのがお決まりになっていたのです。
そんなある日のことです。いきなり「おーい、誰かおらんかのー??」と大声を出して言うので、私が駆け寄ってみると、「ばあさんトコに行く!!」と言われました。突然どうしたのかな?と思い「どこに行けばいいの??」と聞いてみると、いつものように「あっちさ回って、こー行くったい!!」と言われるので、いつものようにリビングを移動することにしました。
しかし、その日はいつもと違いました。
ある部屋で「止まってくれ!」というのです。そこはおじいちゃんのお部屋の前でした。「ここに入ろう」と言うので部屋の中に入ってみると、タンスの上には亡くなった奥さんの写真があり、横には花が飾られています。息子さん夫婦が来られた時にお父さんが寂しくないようにと、仏壇代わりに作られた物でした。
「あの前に連れてってくれ!」とおじいちゃんはタンスの前を指さしました。連れて行くと、おじいちゃんは静かに写真に向かって手を合わせ「俺より先にいってからになぁ」と小さな声でつぶやきました。
今までは「ばあさんはどこや?」と聞いていて、奥さんが亡くなったことを忘れてしまっていたのですが、その日は分かっていたようです。それ以来、ときどき「あっちさ行こう」と言っていつものリビングではなく、おじいちゃんの部屋にいって手を合わせる日もあります。
なんだか、夫婦の絆っていいなと思いました。
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