認知症になって兜を作り始めたおじいさん
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最終更新日:2014/01/13
みんなに聞いてほしい介護エピソード 介護, 認知症
我が家には女の子しかいませんが、五月の節句の兜が二つあります。と、言ってもデパートで売っている高額な物ではありません。廃材で作られた小さな兜です。
子どもの工作を想像するかもしれませんがまったく違います。驚くほど精密で美しく丈夫に作られています。
玄関先にでも飾ればお客さんは必ず話題にするのではないでしょうか。それほど魅力的な風格を備えているのです。
これを作ったのは義理の妹の認知症の75歳になるおじいさんです。私は一度もお会いしたことはありませんが、妹はよくそのユニークなおじいさんの話をしてくれました。
親戚内では浮いてしまうほど変わりもので、しかも認知症になってからら、なぜか急に兜作りを始めたのだそうです。
兜をひっくり返して下から見ると骨格は固い厚紙でできています。方眼紙のようにマス目が見えますから緻密に測って切り取っているのでしょう。一つひとつの模様、形。小さな金属の破片やペットボトルのふたでしょうか?金色の塗料をぬったり、ねじったり。器用であることに加えて、兜をかなり観察するか好きではなくてはできないでしょう。
弟夫婦が遊びに行くたびに認知症のおじいさんは、その兜を5,6個持たせるのだそうです。
「え?じゃあいくつ作ったの?」
思わず聞いてしまいました。数十個単位で在庫があったそうです。欲しい人がいたら声をかけてくださいと、義理の妹は困ったような顔をしていました。その思い入れと行動力にただただ感心してしまいました。
その嬉しいプレゼントをもらって数年後、その認知症のおじいさんが徘徊していると聞きました。仕事中の弟にも捜索要員のため連絡があり、夜近所を探しまわったこともあったそうです。
認知症のおじいさんは、少しずつ家族のことも理解できなくなっていったようなのですが、息子夫婦と住み、好きな物を作りながら気ままに過ごしていたはずです。手先が器用でユニークで孫思い・・・それでも認知症の影響で何かを探しまわるため家を出てしまうのですから認知症というものはやっぱり難しいものです。
残念ながら今年のはじめ亡くなったそうです。私にも鮮烈な印象を残しました。
ご家族は認知症の介護に大変だったでしょうが、弟夫婦は楽しげに、そして涙を浮かべながら思い出話をしてくれます。愛されていたのですね。
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